現時点で北朝鮮体制に最も脅威となる内部の問題は何だろうか。新型コロナウイルスが腐敗を通じて北朝鮮内に広がる可能性だ。最近開かれた党政治局拡大会議で議論された内容がこれを暗示している。金正恩（キム・ジョンウン）国務委員長はこの会議で腐敗の根絶とウイルス伝染病対策について主に指示した。なぜこの２つの件が同時に議論されたのだろうか。金正恩委員長はこの２つが深く関連する問題と見ているためだろう。
金正恩委員長は腐敗一つにも大きな脅威を感じている。金正恩委員長は昨年の「新年の辞」で腐敗が「社会主義制度を侵食」すると述べた。４月の施政演説では不正腐敗との闘争を「国家存亡に関連する運命的な問題」と強調した。今回の拡大会議で李万建（イ・マンゴン）労働党組織指導部長が解任された。２０１３年に張成沢（チャン・ソンテク）氏が処刑された主な理由も腐敗だった。
腐敗指数を出しているトランスペアレンシーインターナショナルは北朝鮮の腐敗水準を世界１８０カ国のうち４番目と評価している。脱北民も「北では一歩踏み出すたび賄賂を渡さなければいけない」と話す。多くの北朝鮮の公務員は賄賂なしに生活できない。月給と配給を合わせても生計費の半分にならない。一方、市場活動従事者の時間あたりの所得は公務員の８０倍にのぼる。制裁の前には年間数万ドルを稼ぐ人も少なくなかった。賄賂でお金と権力が結託する現象が蔓延するしかない構造だ。
官僚と経済勢力が結託した賄賂共同体は、金正恩委員長中心の政治共同体と衝突する可能性がある。官僚は政治的には独裁者に忠誠を尽くしてこそ生き残るが、経済的には賄賂供与者の利益を保護してこそ生存できる。２００９年の貨幣改革当時がそうだった。金正日（キム・ジョンイル）総書記は社会主義精神が弱まるとして２０００年代半ばから市場活動の取り締まりを指示した。しかし市場で賄賂を受けて生計を立てる官僚は取り締まるふりだけをした。これに挫折した金正日総書記は官僚を通さず市場に打撃を与えるために貨幣改革に踏み切り、政権の存亡に言及されるほど大きな危機を経験した。
新型コロナは予想できなかった奇襲だ。この伝染病を遮断するために北朝鮮は１月から国境封鎖に入った。観光客を含む人的往来を防ぎ、公式・非公式貿易までも中断させようとした。その結果、外貨収入と輸出入が大幅に減少した。しかし政治的にさらに敏感な問題は市場に及ぼす衝撃だ。中国から消費財と食料を輸入できなければ物価が上がる。市場取引が萎縮するため、制裁で厳しくなった住民の生活はさらに悪化する。伝染病の拡大を防ごうと地域間の移動を最小化する政策は市場の活動をよりいっそう萎縮させる。この状態が長く続けば、住民の不満は貨幣改革当時ほど強まる可能性もある。
賄賂共同体にはこの時期が大金を稼ぐ機会だ。国境封鎖を突き抜けて輸入した消費財は市場で高値で売れる。計画指標を達成すべき業者は輸入原材料を追加費用を支払ってでも購入しようとするだろう。北朝鮮内の移動さえできれば地域間の価格差を利用して簡単に稼ぐことができる。この事業を可能にしてくれる手助けさえあれば大儲けできると考え、業者は官僚を誘惑する。腐敗が伝染病を北朝鮮に広める経路になる。
北朝鮮の慢性的な腐敗が急性的な新型コロナと結びつけば、体制は生死の境をさまよう可能性がある。金正恩委員長はこの２つの病の結合をどうにかして防がなければならなかった。このため突然、党政治局拡大会議を開き、李万建部長と朴太徳（パク・ テドク）農業部長を不正腐敗で解任した。労働党の幹部でも解任するという信号を与えることで、新型コロナ拡大のきっかけとなる腐敗を断ち切ろうとしたのだ。防疫にいかなる「特殊（例外）」も許すなという金正恩委員長の指示は、腐敗が例外を作る慣行を決して容認しないという警告だ。
北朝鮮式の腐敗防疫は成功するだろうか。独裁者の腕力で賄賂共同体はしばらく息を潜めるだろう。しかし金を稼ごうとする人間の本能は危機が機会という逆発想と結合し、いつか防疫にまた穴を開け始める。「月給では生活できないのでやむを得ない」「腐敗が経済の潤滑油だ」。このように正当性まで確保した腐敗はウイルスよりも狡猾に広がる。
金正恩委員長は腐敗と伝染病が絡んで統制不能状態になる前に新型コロナ事態を収拾させたいと考えているはずだ。金委員長が文在寅（ムン・ジェイン）大統領に送った親書からはこのような胸中を読み取ることができる。南側の同胞の健康を祈るという内容だが、実際は自らが必要であることを暗に知らせようとしている。「私も大変だ」ということだ。親書を浮き彫りにするために妹の金与正（キム・ヨジョン）党第１副部長の非難談話を先に出すことで劇的効果も演出しようとした。
今回の伝染病が終わりではない。金正恩委員長の官僚統制力は腐敗で大きく弱まった。また別の事件が体制を揺るがす可能性があるということだ。結局、経済を発展させて官僚に十分な月給を与える方法しか腐敗を減らす方法はない。しかしこれは非核化と改革・開放なしには不可能だ。自身の将来がここにかかっていることを金正恩委員長は知っているのだろうか。
キム・ビョンヨン／ソウル大経済学部教授
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March 11, 2020 at 08:52AM
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