腐敗が進む妹の亡き骸と36時間
イタリア人俳優のルカ・フランゼーセは、妹のテレサが新型コロナウイルスで亡くなったとき、もうこれ以上つらいことは起きないと思っていた。
ところが、そうではなかった。ルカは腐敗が進むテレサの遺体と一緒に、36時間以上も自宅に閉じ込められることになったのだ。遺体を引き取ってくれる葬儀場が見つからなかったからだという。
「死んだ妹がベッドに横たわったままになっているけど、私はどうすればいいのわからない」と、ルカは3月7～8日の週末にフェイスブックに投稿した動画で訴えた。
「私は妹をきちんと見送ってやることができない。どの機関も私を見捨てたからだ。考えられるところすべてに連絡したが、誰一人として、私に答えをくれなかった」
新型コロナウイルスの感染者数が世界で2番目に多いイタリアでは、死者数が1800人を超えた。政府は流行拡大を抑えるために、北部の1600万人近い人々の移動を制限するなどの強硬措置を取っている。
しかし、そうした措置は意図しない結果ももたらした。感染者の遺体の引き取りを拒む葬儀場が出てきているのだ。
「イタリアは私たちを見捨てた」
カタールの衛星テレビ局「アルジャジーラ」によると、テレサ・フランゼーセ（47）はてんかんに苦しんでいたものの、3月初めに新型コロナウイルスの症状が出はじめるまでは健康だったという。そして3月7日土曜日の夕方、ナポリの自宅で亡くなった。
フェイスブックにルカが投稿した動画によれば、テレサの感染が確認されたのは、彼女の死後だった。検査で陽性の結果が出て、ルカたち家族は隔離されることに。問題は、テレサの遺体をどうするかだった。
ルカがさまざまな当局に問い合わせても答えが返ってこないなか、最終的にナポリ市がある葬儀場を紹介してきたという。しかし、その葬儀場は対応する準備が整っていないとして、遺体の引き取りを拒んだ。
「それはイタリアで初めて感染者が自宅で亡くなったケースでした。そのため、どう対応すべきかについて混乱が生じたのだと思います」と、地元議員のフランチェスコ・エミリオ・ボレリはアルジャジーラに語った。
日曜の夜、ルカはフェイスブックに動画を投稿。息を引き取った妹が横たわっている部屋から、フォロワーに向かってこのウイルスの脅威を訴えた。
「私たちは終わった。イタリアは私たちを見捨てたのだ」
この動画が多くの人々に注目された結果、月曜の朝になってようやく地元の葬儀場がテレサの遺体引き取りに応じてくれた。マスクとゴーグル、防護服に身を包んだ人たちが遺体を運んでいった。
葬儀には家族の誰も出席することができなかった。
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