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20世紀屈指の頭脳、アラン・チューリングの見た未来をわたしたちは生きている | WIRED - WIRED.jp

今世紀に入って名誉回復を果たした英国の数学者アラン・チューリング。ドイツの暗号機「エニグマ」を解読し、人工知能の概念を生み出したその生き様と素顔はどのようなものだったのだろうか。巨大なチューリング・マシンと化していると言えるこの21世紀に、いまなお彼が必要とされるその理由を探る。

英国の数学者、アラン・チューリングは、計り知れない独創性をもつ20世紀屈指の頭脳のもち主だった。

icon-picture TOPFOTO/AFLO
ポール・グリムスタッド

『Bookforum』『The London Review of Books』『n+1』の各誌など、多数の出版物にエッセイや評論を寄稿。

英政府は10年余り前、数学アラン・チューリングに対する公式の謝罪声明を発表した。「アランの功績により自由な人生を送っているすべての人を代表し、つつしんでお詫びいたします。申し訳ありません、あなたはもっと報われて然るべきでした」。当時の首相、ゴードン・ブラウンの言葉だ。英国がチューリングをすさまじく不当に扱ったことを思えば、悔恨を感じさせる口調は適切だった。

チューリングは第2次世界大戦中、ドイツの暗号機「エニグマ」を破るうえで決定的な役割を果たした。おかげで連合国側の情報機関がドイツの潜水艦「Uボート」の攻撃地点を予測できるようになり、数万人の命が救われた。また、チューリングは同性愛者で、それを隠そうとしない人物でもあった。1952年、彼は自宅に泥棒に入られて警察を呼んだ際、男性と関係をもったことをうっかり明かし、「著しい猥褻(わいせつ)行為」の容疑で逮捕されてしまう(オスカー・ワイルドが1895年に逮捕されたのと同じ容疑だ。ワイルドはのちに禁錮刑判決を受けた)。そして、収監されるか、ホルモン治療でテストステロン値を回復させて男らしくなる(当時はそれが有効だと考えられていた)かの選択を迫られた。彼は後者を選んだが、2年後に青酸化合物を染み込ませたリンゴをかじって自殺した。

チューリングは20世紀屈指の影響力をもつ知識人であり、戦時中の暗号解読は彼をその座に押し上げた業績の一例にすぎない。例えば、1936年、23歳のときに発表した「On Computable Number(計算可能数について)」という論文がある。数学のような形式体系における「決定可能性」の問題を論じたものだ。彼はそこで、四角いマス目に区切られた紙テープの上を動く奇妙な装置の概念を提示した。蓄音器のスタイラス(録音針)にも、タイプライターのキャリッジ(往復台)にも似た構造だ。装置は所定の状態ごとに決められた指示に従い、左右に動いたり、値を書き込んだり、消したり、停止したりする。これは実体のあるハードウェアではなく、計算というものの本質について証明するための思考実験だった。そのいちばんの独創性は、個別的な目的に合わせて設計される機械ではなく、指示を与えられる(つまり「プログラムされる」)ことでほかのあらゆる装置を模倣できる機械を想定した点にある。いま、こうした万能コンピューターは「チューリングマシン」と呼ばれ、すべてのスマートフォンやノートパソコン、インターネットの土台になっている。

一方、チューリングの気性は、思考実験の進め方に見られた緻密さや秩序とは対照的だった。現実や慣習にとらわれない反骨精神をもち、ルイス・キャロルやバートランド・ラッセルのように、合理的すぎるがゆえに突飛な言動をするタイプで、ゲーム、パズル、暗号や、数学のように抽象的な形式体系を扱うときに抜群の力を発揮した。また、頭の先からつま先まで科学者だったために神学論的な物事を軽蔑しきっていたが、空想にふける癖もあり、SFに近い領域まで思索が及ぶこともあった。少年時代から機械に強い興味をもったり(11歳で独自のタイプライターの設計図を描き上げた)、新しい言葉をつくったり(例えば、カモメの鳴き声を表す「クオックリング(quockling)」という単語がそうだ)もした。また、エドウィン・テニー・ブルースターによる子ども向けの科学書『Natural Wonders Every Child Should Know』(仮訳『すべての子どもに知ってほしい自然の不思議』)に夢中になったこともある。人類が非常に精巧な機械にすぎないことを示唆する本だ。彼はその後、思考という営みは機械化できるという発想を追究し、ケンブリッジ大学の友人デイヴィッド・チャンパーノウンと共にコンピューター・チェスプログラムの先駆け「Turochamp(チューロチャンプ)」を開発した。

第2次大戦が始まると、チューリングのような頭脳のもち主は連合国側の情報活動にとって極めて貴重な存在になる。エニグマが世界最高の能力をもつ頃には軍事暗号は数学的な複雑さを増し、特にエニグマによる暗号は解読不能と考えられていた。エニグマは円盤を回転させることで入力されたアルファベットと異なる文字を出力し、暗号文を生成していたが、チューリングの指揮の下、ポーランドの解読班から提供された情報や、沈没したUボートから回収された暗号帳をヒントにして、円盤の設計の欠点を突く機械が開発された。ナチスの無線通信が解読できるようになったのは、それからまもなくのことだ。しかも、この成功はドイツ側に気づかれなかった。

ケンブリッジ大の学生だったころのチューリングは反戦派だったが、国民としての義務感に加え、最高難度のパズルに挑戦する目的でこの仕事を引き受けたようだ。彼は充分な労働環境を整えさせることにもこだわり、首相のウィンストン・チャーチルにまで窮状を訴える手紙を送っている。暗号解読班はロンドン北西部にあるチューダー様式の豪邸、ブレッチリー・パークを拠点としていたが、配管設備が貧弱だったのだ。

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原文: New Yorker

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May 25, 2020 at 05:00AM
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