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「金も食料も家もない」──政治腐敗やコロナ禍に追い打ちをかけた大規模爆発。レバノンの人々のためにできること。 - VOGUE JAPAN

首都ベイルートの港での大規模爆発により170人以上が死亡、6,000人が負傷したレバノン。8月4日撮影。Photo: Getty Images

「家がめちゃくちゃ!」

8月4日、姉妹から受け取ったメッセージは、家族と遠く離れた海外で暮らす者なら誰もが恐れる内容だった。レバノンの首都、ベイルートの港で起きた爆発を知らせるそのメッセージは、私を心底震え上がらせた。爆発の衝撃波は、市境を越えてはるか遠くに及び、240キロ先にいた人にも伝わったという。

爆発が起きたレバノンでは、家屋や事業所、さらには街区が丸ごと破壊され、数千人の負傷者が出た。しかし今も、支援や治療が行き届いている状態とは言い難い。

もともと新型コロナウイルスの感染拡大で手いっぱいだった病院では、医療従事者たちが次から次へと運び込まれる負傷者に対応した。病院自体も被害に遭っており、3つの病院が全壊、別の2つの病院も被害を受けたとアルジャジーラが伝えている。

爆発当日、私のような海外居住者の大半が昼夜問わずスマートフォンに張り付き、母国に残した家族や親しい人たちの状況をチェックした。ソーシャルメディアが彼らの心痛を受け入れる場所となった一方、親しい人の死亡が確認されたり、家が全壊したといった知らせを受け取って静かに涙に暮れる人々もいた。

もちろん、すべてのソーシャルメディア上の情報が信頼できるわけではない。例えば、「@locatevictimsbeirut」というインスタグラムのアカウントは、行方不明の人の居場所を突き止めると謳っているが、複数の人がその信頼性に懸念を表明している。

レバノン人コミュニティは今、ネット上でシェアされる情報をチェックし、寄付や支援を行なうべき組織をリストアップしている。本記事の最後に寄付先を記したので、ぜひ参考にしてほしい。

爆発前から危機的状況にあったレバノン。

爆発現場近くに重なる瓦礫の山。Photo: Getty Images

私の故郷ベイルートの住民たちの心は、爆発のずっと前からすでに折れかけていた。それをかろうじて支えていたのは、人々の生き抜こうとする意志だ。

だがこの爆発で、そんな人々もインフラもズタズタに引き裂かれてしまった。一体どうしてこんなことになってしまったのか。

アルジャジーラの報道によると、爆発現場にあった3,000トン近くの硝酸アンモニウムは、2013年に偶然ベイルートの港にたどり着いたという。もともとこの硝酸アンモニウムは、モザンビーク行きの貨物船ロサス号に載せられていたものだったが、寄港中に起きたトラブルからベイルート港に留め置かれ、同港の12番倉庫に移されたのち、長らく放置されていたのだ。

レバノン政府は、硝酸アンモニウムを細心の注意をもって保管するよう要請していた。何かのきっかけで爆発した場合、ベイルートの街が壊滅的な被害をこうむる恐れがあったからだ。税関の係官は、2014年から'17年にかけてベイルート緊急事態判事に6通の書簡を送り、危険物であるこの硝酸アンモニウムを処分するよう求めていたという。だが、対策が講じられることはなかった。

金も食料も家もない。

爆発現場付近を走るレバノン兵。Photo: Getty Images

一方で、悲惨な爆発が起きる前から、レバノンの人たちの暮らしは困難を極めていた。長引く政治不安や前例のない経済危機、極度の食料不足に、新型コロナウイルスのパンデミックが追い討ちをかけていたからだ。

政府の上層部では政治腐敗が蔓延し、失業率は上昇。さらに電気や水、ゴミ処理といった日常生活に不可欠なモノやサービスの提供も滞り、食品や燃料、ごく基本的な生活必需品の価格も急騰している。

カーネギー中東センターの調べによると、レバノンでは国民の3人に1人が失業状態にあるという。また世界銀行の調べによると、国民のうち推計で約22%は、極度の貧困ラインより下の生活を送っており、多くの人々が食べるものにも困る状況だ。インフレ率は2020年6月の時点でほぼ90%に達し、5月には生活必需品の価格が55%も上昇した。

そうした状況でこの爆発が起きた。爆発で、小麦や穀物を備蓄していたサイロが吹き飛んでしまった。爆発が起きた日の夜の時点で、すでに30万人が家を失い、眠るところもなく、食べるものもない状態に置かれている。レバノンは完全なカオス状態だ。

また、国内の消費財のほぼすべてを輸入に頼るこの国では、首都の港で起きた爆発の影響は非常に深刻だ。医療用品や食料の供給ルートが断たれてしまったからだ。

「ベイルートの港は、国全体の大動脈です」

こう指摘するのは、中東・北アフリカ(MENA)地域のアナリストで、ニュースチャンネル「TRTワールド」の政治コメンテーターも務めるバシャール・エルハラビだ。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のまとめによると、レバノンでは必要とされる食料と物資の80%以上が輸入によってまかなわれており、こうした輸入品の6割が、爆発が起きたベイルートの港を経由している。

つまりレバノンは、自国民の命を支える生活必需品をほとんど自給できていないのだ。この状況は、1990年にレバノン内戦が終結してから変わっていないが、もとをただせば、ヨーロッパの列強諸国が植民地化を進めた時代に、土地の使用権が私有化されたことが遠因となっている。

国内外で高まる、変革を求める声。

ベイルートの港で炎に包まれる船。8月4日撮影。Photo: Getty Images

2019年10月以降、レバノン国民は現在の政府に対し、直ちに権力の座から退くよう求めてきた。今回の爆発は、「サウラ」(アラビア語で「革命」)を求めるこうした民衆の叫びの正当性を裏付ける出来事になりそうだ(編註:レバノンのハサン・ディアブ首相は8月10日、内閣の総辞職を発表している)。

レバノンの歴史を専門とし、ケンブリッジ大学で博士号取得を目指すクロエ・カタールは、現地情報や映像を伝え、現地とレバノンを離れて世界各地に住むレバノン人たちを結ぶ橋渡し役を務めてきた。そんな彼女から私へのWhatsAppメッセージには、こう書かれていた。

「国際社会にもレバノンを援助する方法があります。資金や食料、基本的な医療用品などを、病院や地元NGO、レバノン赤十字などに直接寄付してください。レバノン政府を経由するやり方は信用できません。腐敗や公的資金の流用の前歴があるからです。

ベイルートに赴いたレバノンの人々の人道的支援は、本当に尊敬に値するものです。彼ら自身、支援を必要としているにもかかわらず、爆発の翌日には市民ボランティアがベイルートに結集しました。一方で警察や軍の人員は、まったく見かけませんでした」

希望のために支援の手を。

国連女性機関(UN Women)の顧問を務めるカルマ・エクメジは8月5日、インスタグラムに投稿した動画で、こう呼びかけた。

「レバノンに住む女性、そして中東とアラブ世界に住む女性たち、どうか聞いてください。すべては私たちにかかっています。自分たちのコミュニティが互いに争うことをやめさせるための絆、それが私たちなのです」

抗議活動の時と同様、爆発後の人道支援でも、最前線に立っているのはレバノンの女性たちだ。近所の家を訪ね、がれきの片付けや撤去を手伝い、街中で食料の配布や救助作業の援助を行なっている。

レバノンの歴史を研究してきたカッタールが指摘するように、ベイルートで起きた今回の爆発は、30年にわたる政治腐敗の不幸な結末ととらえることができる。

「爆発性の高い化学物質が港に保管されていることは、港湾の管理当局から司法、政府に至るまで、この国の上層部には周知の事実でした。それなのに、ここまで管理を怠っていたことは、現在のレバノン政府がいかに無能で、受け身の態勢にあったかという動かぬ証拠です。事前の対策を講じず、行政の権限がうやむやになっていたことは、犯罪的とも言えます。この件に関わるすべての人々は、罪を問われるべきです」

爆発の発生以来、レバノンの人々は持てる力のすべてを発揮してお互いに助け合い、家をなくした人に住むところを提供している。これは私たちの生存本能や生き延びるスキル、そして地域社会を守るために分け隔てなく困っている人々を助ける、レバノン人の献身性を示す好例だ。

そしてこれはまた、私たちが自国の政府からの支援をまったく期待せず、地域社会だけを頼りにしてきたことの現れでもある。マルーリは訴える。

「レバノンの人々は教育を必要としています。その教育のための資金を確保するには、国際社会の協力が不可欠です。教育制度を含め、国家はボロボロの状態だからです」

レバノンは国民の37%を20歳未満が占める若い国だが、私たちは希望をもてる未来を奪われつつある。以下に、この窮状からレバノンの人々を救い、彼らがよりよい未来を築くための改革を支援できるプロジェクトやチャリティをリストアップした。

【寄付を推奨する団体リスト】

食料支援
レバノン・フードバンク(Lebanese Food Bank
アトファルナ・キャンペーン(Atfalouna campaign
アオラ・ファウダ(Ahla Fawda
カフェ・ビー・カファク(Kafe be Kafak

総合的な支援
レバノン赤十字社(Lebanese Red Cross
オフレ・ジョワ(Offre Joie
ベイ・エル・バラカ(Beit el Baraka
インパクト・レバノン(Impact Lebanon
バイトナ・バイタク(Baytna Baytak
ダリール・トーラ(Daleel Thawra
レバノン・ニーズ(Lebanon Needs
リビルド・ベイルート(Rebuild Beirut)

レバノン国内の労働者支援
エーニャ・レーニャ(Egna Legna

Text: Celine Semaan

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"腐敗" - Google ニュース
August 17, 2020 at 05:00PM
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