この記事のPOINT!
- 養子縁組の推進に向け、児童相談所と民間あっせん機関の連携ニーズは高まっている
- しかし官民連携には多くの課題が。適切に情報共有と役割分担を行えば改善される問題も
- 双方の強みを生かしノウハウを学び合えば「子どものため」の特別養子縁組の支えに
取材:日本財団ジャーナル編集部
近年、養子縁組に関する法改正が相次いで行われたことで「特別養子縁組制度」の利用機会が広がったことについては、当連載【子どもたちに家庭を。】(外部リンク)の中でたびたび触れてきた。社会的養護(※)が必要な子どもの8割以上が乳児院や児童養護施設で成長する日本の現状がその背景にあり、国は特別養子縁組や里親制度を通じて、一人でも多くの子どもたちが家庭で育つことを目指している。
- ※ 保護者がいない、または保護者による養育が難しいと判断された子どもを、公的責任によって子どもを養育・保護する仕組み
2016年度の厚生労働省の調査では、児童相談所と民間あっせん機関が特別養子縁組を検討したものの、成立には至らなかった件数のうち、「養親候補者が見つからずに縁組に至らなかった」ケースが2割程度あったことが明らかになった。2017年には改正児童福祉法が施行され、「養子縁組に関する相談や支援は児童相談所の業務である」ことが位置付けられた。つまり、長年にわたり明確にされてこなかった養子縁組に関わる相談・支援は、「児童相談所の業務である」と国が明示したのだ。
加えて、2018年には、養子縁組あっせん法(※)が施行され、児童相談所と民間あっせん機関が連携しながら協力するよう努めることが示された。
- ※ 民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律
しかし、国は「連携・協力」を求めながらも、どのように連携し、どこまで情報共有するのか、といった具体的な指針の整備には着手できていない。これまで独立した動きをとってきた児童相談所と民間あっせん機関は、それぞれ業務の流れもノウハウも異なる上、双方のコミュニケーションも不足している。養親や生みの親に対する説明内容の過不足といった行き違いも起こりやすく、その対応は子どものために取り組む現場の職員らに負担としてのしかかってしまう。
そういった現状を調査して、適切な支援のあり方を研究したのが、都市の社会環境問題の解決に取り組む株式会社HITOTOWA(外部リンク)だ。厚生労働省の国庫補助事業として、2019年には「養子縁組のあっせんにおける民間あっせん機関と児童相談所との連携や情報共有のあり方に関する調査研究」(外部リンク・PDF/5MB)、2020年には「特別養子縁組制度の改正を踏まえた年齢要件の緩和及び手続の改正に係る事例に対する支援のあり方に関する調査研究」(外部リンク・PDF/3MB)を実施。児童相談所と民間あっせん機関のニーズや課題を明らかにした。
調査研究を経て見えてきた、特別養子縁組を進める上で求められる、「子どものための」新しい官民連携の姿とは? 調査を主導した、HITOTOWAこども総研・執行役員の西郷民紗(さいごう・みさ)さんに話を伺った。
どこが・何を・どうやって行うのか、整備されていない現状
養子縁組に関わる法律の相次ぐ改正により、特別養子縁組制度はより利用しやすくなった、と言える。しかし児童相談所や民間あっせん機関で働く職員からは「連携が難しい」という声が届いていた、と西郷さんは言う。
「本来であれば、養子縁組が望ましい子どもの養親希望者が見つからない場合、養親候補者の情報を共有するなど、児童相談所と民間あっせん機関が協力し合えれば、縁組の機会は広がる可能性があります。しかし『どういった方法で・どこまでの情報を共有し合うか』などのルールが整備されていない現状では、なかなかスムーズな連携と役割分担に至りません。むしろ不十分なやり取りによって行き違いが生まれ、生みの親や子ども、養親候補者に負担をかけてしまう懸念もありました。そこでより良い連携のあり方を模索するために、調査研究を実施することにしたんです」
児童相談所と民間あっせん機関の連携に触れる上で、避けては通れない課題の1つに、児童相談所の慢性的な「人員不足」がある。
「児童虐待相談対応件数は年々増加しており、2020年度には年間20万件を超えています。多くの児童相談所はその対応で本当に忙しく、キャパシティを越える業務を担っている地域も決して珍しくありません。養子縁組が重要だと理解はされているのですが、状況によってはきめ細かい対応が難しい場合もある、と言えるでしょう」
全国に200カ所以上ある各児童相談所が、年間に成立させる特別養子縁組の件数は、平均して1カ所あたり2件に満たない。特別養子縁組を適切に推進するためには、民間あっせん機関との連携が欠かせないが、成立までのプロセスで問題が起こりやすいのだという。
図表:児童相談所における2017年度から2018年度の特別養⼦縁組成⽴件数の分布
図表:民間あっせん機関における2017年度から2018 年度の特別養⼦縁組成⽴件数の分布
「児童相談所と民間あっせん機関の『情報共有』にまつわるトラブルは、比較的起こりやすい問題と言えます。例えば民間あっせん機関で養子縁組を進める場合でも、子どもが養親候補者との同居を開始した場合、児童相談所では養育里親の場合と同等の支援(指導)体制を取る必要があります。民間あっせん機関がそのことを養親候補者にあらかじめ説明し、児童相談所への情報提供に関する同意を得ているとスムーズに進むものの、そうではない場合は児童相談所も状況が分からなかったり、家庭訪問に協力をしてもらうことが難しかったりするのです。一方、民間あっせん機関が丁寧にそれらの対応をしても、児童相談所によって協力体制が異なるという現状もあります。また、双方からの養親への説明が不十分であることで、養親側に不信感が生まれてしまうケースも起こっています」
これは「どちらから・何を伝えるべきか」という役割分担が不明確であるため起こる問題と言えるだろう。さらに各民間あっせん機関の業務フローが異なることや児童相談所によって求める情報が異なる、という要因がさらに状況を複雑化させている。
図表:児童相談所における⺠間あっせん機関との情報共有を⽬的として使⽤している共通様式の有無
図表:民間あっせん機関における児童相談所との情報共有を⽬的として使⽤している共通様式の有無
「これは、双方共通の連携の指針さえあればある程度は解決する問題ですが、現在は自治体ごとの方針や、各現場の歩み寄りに委ねられてしまっているのが現状です。児童相談所と民間あっせん機関が協力体制を取れている場合には、ケースのアセスメントについて話し合いの機会を設けたり、支援方針自体を一緒に考えたりするなどしており、手続きがスムーズに行えている実例もあります」
そこで、HITOTOWAこども総研では、調査を通じ、頻繁にトラブルが起こりうるポイントが重複していることが分かってきたため、専門家らと協働し、特別養子縁組の一般的な流れと役割分担についての指針となる「民間あっせん機関と児童相談所の連携時に参考となる手引き」(外部リンク・PDF/2MB)を作成した。児童相談所と民間あっせん機関の双方が参照することで、共通認識を持って養子縁組の手続きを進められる内容となり、厚生労働省からもこの手引きの利用を促す通知を出している。
「問題が起こるケースを少しでも減らすことにつながるのではないかと期待していますが、通知はあくまで助言という位置付けであるため、各機関の判断に委ねられる部分もあります。通知では問題が是正されない場合には、スムーズな連携と役割分担を各所で実現させるために、国がより具体的な指針を定めることも求められるのではないでしょうか」
子どものためを思うからこそ、誤解が生まれることも
役割分担の明確化や手順の整備といった、ハード面の改善が求められる一方、調査結果からは「現場の意識改革」というソフト面の課題も浮かび上がっている。
「民間あっせん機関へのヒアリング調査で『養子縁組に協力的な対応をしてもらえない児童相談所が一部ある』という課題が一定数あることが明らかになりました。児童相談所の人員不足という要因もありますが、『なぜ民間機関の縁組に協力する必要があるのか』といった、民間あっせん機関の活動に対する理解不足が原因であるケースも見られます」
図表:児童相談所における民間あっせん機関との組織間連携の必要性について
このような行き違いの背景には、民間機関が多様で支援内容が異なることもある。
「あの機関はこれをしているのに、なぜこの機関はやらないのか、など児童相談所側が対応の質に差があるかのように感じてしまうケースがあるようです」
また、民間あっせん機関は、公的な補助を受けていないところが多く、支援などにかかる費用として、養親から手数料を受け取っていることが多い。この金銭のやり取りに対し「営利目的ではないか」という疑念を抱いている児童相談所もあるという。
「2018年から養子縁組あっせん業は許可制となりました。都道府県による審査を経て運営されているのですが、児童相談所の中には民間あっせん機関と全く関わった経験がないところも多く、実態を知る機会が少ないことも影響しているのではないでしょうか」
図表:児童相談所において養⼦縁組に関して⺠間あっせん機関へ事業を委託した経験
ほとんどの児童相談所は、職員それぞれが担当ケースを抱えて対応に当たっている。養子縁組で民間あっせん機関と連携したことのある担当者がいても、その経験やノウハウが属人的になったり、異動によって引き継がれなかったりすることによって組織全体に共有されづらいという課題もある。
「民間あっせん機関や他の地域の児童相談所も含め、多機関での協力が必要になるときの連携窓口役を設けたり、連携の手引きを作ったりするという対応も考えられます」
最初の1ケースを乗り越えれば、協力体制の礎ができる
2020年の民法等の改正により、特別養子縁組制度の年齢上限が6歳未満から原則15歳未満に引き上げられた。この法改正の目的は、社会的養護を必要とする子どもが永続的な家庭で育つ機会を増やすことにある。
子どもにとっては縁組後の生活が新たなスタートであり、特に年齢が高い子どもに対しては養子縁組成立後のサポートがより重要だと言われている。子どもと養親の生活をより良くしていくためにどういったケアが必要なのか、児童相談所と民間あっせん機関が共通理解を持つ必要がある。連携の必要性はますます高まっているのだ。
このような状況のもと、東京都では児童相談所と民間あっせん機関による定期的な情報交換等も行っている。民間あっせん機関が複数都内にあるという理由もあるが、他の自治体に比べると、民間あっせん機関の活動や特徴について、児童相談所も把握が進んでいると言えるだろう。また、横須賀市では、関東近郊の民間あっせん機関と協定を結び、相互連携する内容や基本的な手順を定めている。しかし、こういった動きは自治体によって取り組みにバラつきがあるのが現状だ。
児童相談所と民間あっせん機関が「子どものため」に協力するチームとなり、背景の違う多様な家庭が幸せに過ごす社会になる。西郷さんの願いは、そんな未来が実現することだ。
「民間あっせん機関だけで縁組後の支援を行っているケースもありますが、養親の住まいが遠方にあるなど機関の活動では補えない場合は、児童相談所や市町村等にサポートを求める必要が出てくるでしょう。また長く活動している民間あっせん機関には、生みの親や養親との継続的なサポートに関する豊富なノウハウがあります。互いの強みを生かした支援を行っていけるよう信頼関係を構築することは、双方にとって学びになることも多大にあると感じています」
養子縁組に限らず、他の組織と初めて連携するときには難しさを感じるもの。いったん乗り越えれば信頼関係が構築でき、流れもつかめるはずだ。まずはお互いに協力体制をとった支援を一件行ってみる。その経験が重要な一歩になるのではないだろうか。
※記事内で使用している図表は、令和元年度(2019年度)厚⽣労働省⼦ども家庭局⼦ども・⼦育て⽀援推進調査研究事業「養⼦縁組あっせんにおける⺠間あっせん機関と児童相談所との連携や情報共有のあり⽅に関する調査研究 報告書」より抜粋
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
西郷民紗(さいごう・みさ)
1985年東京都生まれ。2007年に立教大学コミュニティ福祉学部を卒業後、株式会社コスモスイニシアに入社。2012年に育児休業からの仕事復帰と同時に、東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラム入学。2014年に卒業後、公益財団法人日本財団に所属。児童福祉分野の助成事業や政策提言、官民連携のネットワーク推進、社会的養護の調査研究に従事。2017年にHITOTOWAに入社し、子育てコミュニティの形成支援や子育て世帯の意識調査、厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業等を主管。
早稲田大学社会的養育研究所客員研究員。社会福祉士。
株式会社HITOTOWA 公式サイト(外部リンク)
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