クラシックの扉を開ける「鍵の管理人」になりたいピアニスト石井琢磨氏 - 日経ビジネスオンライン

ユーチューブやSNS（交流サイト）の発展により、音楽家の生き方や活動の幅が変わりつつある。ジョルジュ・エネスク国際コンクール（ルーマニア・ブカレスト）ピアノ部門第2位を受賞した石井琢磨氏は、日本とウィーンの2拠点生活を送りながら、コンサート、ユーチューブ、ラジオと幅広い活躍を見せる。そんな石井氏に、現代ピアニストの生き方について話を伺った。

チャンネル登録者数は約23.7万人

　これまでクラシックのピアニストといえば、CD音源の販売やコンサートツアーが主な活動とされてきたが、ユーチューブやSNS（交流サイト）等の発展に伴い、活動の幅は広がっている。従来の演奏活動にとどまらず、「ピアノ系ユーチューバー」としてインターネットを通じた配信活動に精を出すアーティストは近年増加傾向にある。

　ウィーン国立音大ピアノ科修士課程を修了後、2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクールピアノ部門で日本人初の第2位を受賞した石井琢磨氏もそんな音楽家の一人だ。

　活動の幅は広く、現在はウィーンと日本で2拠点生活を送りながら、CDのレコーディングや全国ツアー、ラジオ番組のパーソナリティーなど、さまざまな活動にチャレンジしている。

　そんな石井氏が演奏活動とともに注力しているのが、自身が運営するユーチューブチャンネル「TAKU-音 TV たくおん」だ（以下「たくおんTV」）。現在「たくおんTV」のチャンネル登録者数は約23.7万人、総再生回数は8100万回（8月中旬時点）。石井氏はクラシックの実力派ピアニストでありながら、人気ユーチューバーとしての顔も併せ持つ。

　「たくおんTV」のコンセプトは、「クラシックをより身近に」。企画を考える際に大切にしているのは、「自分が楽しめること」「視聴者に喜んでもらえること」「クラシック音楽のテイストを入れること」の3つである。

　ウィーンと日本を行き来しながら活動する石井氏にとって、場所を超えて自身の音楽を届けることのできるユーチューブの場は貴重なもの。視聴者の声を直接聞くことができる点もユーチューブの魅力だという。

　「一般的なピアニストは舞台で演奏して得られる観客からの反響は、拍手とブラボーの声ぐらい。それがユーチューブなら動画に200や300ものコメントをつけてもらえます。配信ライブでは、チャットを通じて同じ時間を共有しながら、瞬間瞬間の反響を知ることができます。コメントやスパチャ（スーパーチャット：投げ銭）は自分の生きる原動力になっています。それほど、クラシックの世界は閉鎖的なのかもしれません」（石井氏）

1989年、徳島県鳴門市生まれ。東京芸術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を経てウィーン国立音楽大学ピアノ科に入学、同大学ピアノ科修士課程を満場一致の最優秀で修了。ポストグラデュアーレコース修了。「クラシックをより身近に」をコンセプトにした動画配信も行う。2016年ジョルジュ・エネスク国際コンクール(ルーマニア・ブカレスト)ピアノ部門第2位受賞。国内外で演奏活動を行うほか、「TAKU-音TVたくおん」名義でユーチューブチャンネルを開設。チャンネル登録者数は約23.7万人、総再生回数は8100万回（8月中旬時点）。セカンドアルバム「TANZ」がオリコン、アマゾン・ドット・コム、楽天市場などの週間ランキングクラシック部門で第1位を獲得。オリコン総合部門においてもクラシックCDとしては異例の第11位にランクイン（写真：鈴木愛子）

　石井氏のユーチューブチャンネル「たくおんTV」の人気企画は、ピアノの置いてあるレストランやカフェなどで石井氏が飲食し、ピアノの演奏交渉をその場で行うというもの。交渉が成立すれば立地や雰囲気に合う楽曲を石井氏がその場で演奏し、許諾が得られない場合は自宅での演奏シーンとカフェでの飲食シーンを編集でつなぎ合わせて公開する。アポなし企画ゆえのハラハラ感と、スイーツを笑顔で頬張る柔らかな石井氏の雰囲気がほかでは味わえない企画として人気を博している。