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社員の士気ランキング上位30社 鍵は年収より成長環境 - 日本経済新聞

日経ビジネス電子版

従業員の立場から見て、社員の士気が高い会社はどこだろうか。

日経ビジネスは社員口コミサイトを提供するオープンワークの協力を得て、社員の士気が高い企業のランキングを作成した。

1位に輝いたのは外資系コンサルティング大手のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)だった。長谷川隼也パートナーは士気の高さについて、「自分の運命を自分で決められることが大きいのではないか」と分析する。

激務と働きやすさを両立

例えば、2019年に導入したプロジェクトのマッチングシステムでは毎週、プロジェクトごとに誰がリーダーで、どんなスキル・経験が必要かを示し、参加希望を募る。興味があれば手を挙げられるが、参加できるかは自分の能力次第だ。シビアな社内競争を勝ち抜き、スキルを高めれば希望するプロジェクトにどんどん参加でき、やる気がさらに上がる仕組みだ。

価値を生み出すには現実的に激務と向き合わなければならないこともある。このためBCGは各プロジェクトについて週1回、期待された付加価値を生めているか、メンバーの業務量は適切かなどの観点で働き方を確認する場を設ける。「週1回はジムに行きたい」など希望する働き方を同僚と共有できる。

同年には会社に愛着を持てるよう文化醸成の委員会も立ち上げた。「会社の目線と若手の視点を合わせる機会」と位置付け、服装のオフィスカジュアルを認めるなどの施策につなげた。時代に合った働き方のニーズを吸い上げ、エンゲージメントを高めている。

士気が高い上位30社の顔ぶれは下の表のようになった。コンサルティングやIT系が目立つ。年収だけでなく、成長環境を整え、共感できる理念がある企業が多いことも特徴だ。

社員の士気は、オープンワークが口コミで各企業を定量評価してもらう際に用意する8項目の一つ。同社の大澤陽樹社長によると、上位30社には3つの特徴がある。(1)フィードバックの文化があり、成長できる環境が用意されていること(2)権限委譲を進めて経営にスピード感があること(3)明確な評価基準を持ち、カルチャー(企業文化)を確立していること──だ。

20位のP&Gジャパン(神戸市)も、成長環境が整った会社として有名だ。外資では珍しく、経営人材を社内で引き上げる「内部昇進制」があり、人を内部で育てる意識が強い。「Feedback is gift(自分が受けたフィードバックは大切な贈り物)」という考え方が浸透しており、上司部下関係なく話す「ストレートトーク」が推奨される。

トレーニングカンパニーと呼ばれるほど充実した社内研修も特徴だ。社内の人材が講師となり、社内の研修をほぼ内製する。企画書の書き方から商品開発、ファイナンスなど幅広い分野で「実践に即した内容を教え、日々の業務に生かしやすくする」(人事統括本部シニアディレクターの市川薫氏)狙いだ。

マーケティング会社、刀(大阪市)の森岡毅最高経営責任者(CEO)もP&G時代に講師を務めている。

15位のプルデンシャル生命保険(東京・千代田)でも、育成の手厚さを評価する社員が多い。

オープンワークの大澤社長はプルデンシャルについて、「年収の高さで知られるが、それよりも口コミからは活躍するまで1対1でこと細かに育成している様子が伝わる」と話す。

同社は営業社員に活動エリアやマーケットを制限しないため、どんな相手にどのように営業するのかが各社員の腕の見せどころ。営業所長が入社間もない社員の商談に同席するなど1対1で付き、「個人事業主」のように自立できるにはどう行動すればいいか、こと細かに教える。条件がそろえば最短1年程度で営業所長にもなれるといい、結果的に退社して仲間と販売代理店業を起こす人もいる。

年収の高さだけではなく、自分のキャリアを描きやすいことも全体的な士気の高さにつながっているのだ。同じ成果報酬でも、より「面白いことをやれている」という感覚が、業界他社に比べて高いスコアに表れているという。

理念に共感し、心に火が付く

オープンワークの大澤社長が「隠れた優良企業」と評価するのが、2位に入ったIT(情報技術)コンサルティングのウルシステムズ(東京・中央)。こちらも社員の裁量権が大きく、分業されることが多いコンサル業務とエンジニア業務を1人が手掛ける。

もう一つの特徴は、多くの社員が同社の理念に共感していることだ。創業者の漆原茂会長はIT大手出身だが、ITエンジニアが顧客の顔も見ずに、切り分けられた仕事をただ黙々とこなす業界の構造に疑問を抱き、00年にウルシステムズを起業した。かつて留学した米シリコンバレーで見た、エンジニアが力を存分に発揮できる環境に近づけたかったという。

もちろんエンジニアの独り善がりでは顧客は離れてしまう。顧客にフルコミットするため、やらないことリストとして「お客様のためにならないIT導入」「技術者の自己満足だけの仕事」など12カ条を明文化。実現できそうにない経営目標は廃止した。こうした施策が、業界構造に疲弊した他社の社員を引き付ける。「心に火が付いた」と転職してくる人もいる。

ホテル・レストランを運営する4位のPlan・Do・See(プラン・ドゥ・シー、東京・千代田)では、「自分たちが顧客になった時に感動するサービスを届けていこう」という理念を社内に浸透させている。社員がホテルなどを顧客として体験する費用をサポートする制度もある。若手の成長環境を評価するコメントも多かった。

19位のフリーも「マジ価値(ユーザーにとって本質的な価値があると自信を持って言えることをする)」という文化を掲げる。「中長期を含めて顧客の価値を生むためにどうすればいいか、みんなで議論し続ける文化がカルチャーの定着や高スコアにつながっているのでは」(オープンワークの大澤社長)という。

6位のキャディ(東京・台東)は、特注部品などの受発注で発注者と町工場を仲介するシステムを手掛ける。顧客が部品の図面をアップロードすると、キャディがコストや納期を基に最適な技術を持つ会社を探し、品質も担保して納品する。アナログが主流だった業界にデジタルの新風を吹き込み、設立から6年近くで200億円超の資金を調達。米国やアジアにも進出する「ユニコーン予備軍」だ。

持ち味は組織運営のスピード感。例えば月に1度、従業員の意識などを調べる「パルスサーベイ」を実施する。ある時、「自分たちの仕事が顧客の価値につながっていると感じるか」という設問の数値が下がった。そこで、すぐにグローバルの全社会議に顧客の1社を招き、キャディに期待していることや改善の余地があることなど率直な話をしてもらった。同社は「特に顧客接点がないエンジニアなどから評判が良かった。社内から上がった声は3カ月以内に行動に移す」と話す。このスピード感が若手を呼び込む。

10位にランクインしたサイバーエージェントは、創業者の藤田晋社長が26年に会長に退くと表明。若手にどんどん裁量権を与えるという姿勢を会社として打ち出している。

オープンワークの口コミデータのうち、各企業を定量評価する8項目について、社員の士気が高い上位30社と全企業の平均とを比較したのが上のグラフだ。社員の士気が高い会社では、総じて「20代成長環境」に満足している社員が多いことが分かる。

若手はタイパよく成長したい

この相関を読み解く鍵は、近年の日本企業を取り巻く環境変化にある。働き方改革が進み、コンプライアンスやハラスメントに対する感度が上がった結果、若手にとって働きやすい環境となった。オープンワークのデータでも、残業時間が一番少ない世代は20代だった。ところが、働きやすくなった一方で、ここ10年で20代成長環境のスコアは下降トレンドにある。

日本経済の停滞に加えてこうした背景もあり、今の若手は「会社への不満より将来への不安が大きい」(オープンワークの大澤社長)。タイムパフォーマンス(タイパ)よく成長したい若手が多いことが、20代成長環境のスコアが高い企業で社員の士気が高くなっている背景にあると見られる。

成長環境は企業規模や事業環境などに左右される面があるが、カルチャーをしっかり確立できれば、ウルシステムズやキャディのように士気を高めることは可能だ。採用基準、目標設定、社内表彰などにカルチャーを組み込み、日々のコミュニケーションを通じて社内に浸透させていくのだ。最初から社員の士気が高い会社はない。

(日経ビジネス 西岡杏)

[日経ビジネス電子版 2024年1月31日の記事を再構成]

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