
[ベンガルール(インド) 27日 トムソン・ロイター財団] - チャンドニー・バガットさん(18)はこの3年間インスタグラムに宗教的な動画の投稿を続ける、インドのソーシャルメディア(SNS)におけるインフルエンサーだ。最近は、信仰に関する日々の投稿に、政治的な内容を混ぜるようになった。
来るべき選挙に向けて、各政党はバガットさんのようなSNSインフルエンサーを何千人も動員している。狙いは、幼い頃からネットに親しんでいる若いインド人有権者の獲得だ。
インスタグラム上でのバガットさんのフォロワーは20万人以上。昨年、100人以上のコンテンツ制作者と共に、インド中部の都市インドールで開催された与党インド人民党(BJP)の職員との会合に招待された。
バガットさんのインスタグラムにはヒンドゥー教のシバ神に関する内容が並ぶが、昨年以降少なくとも5件、BJPを支持する投稿があるのが目を引く。1件は地域の女性向け保健制度への支持、もう1件はBJP元閣僚と共に笑顔で写った自撮り写真だ。
バガットさんは「見てくれる人の利益になることを投稿しようと努めている」と話す。
インドのインターネット利用者は8億人を超える。インスタグラムとユーチューブの普及率は世界一で、有力インフルエンサーに政党を応援する「顔」になってもらうのは理にかなっている。
モディ首相率いるBJPは昨年以来、SNS上のインフルエンサー数百人の取り込みを進めている。いずれもインスタグラムやユーチューブで影響力を持つ人々だ。
数百万人のフォロワー数を誇る例もあれば、ほんの数千人という場合もある。
政権に対して批判的な主流メディアを回避して、こうしたインフルエンサーに閣僚へのインタビュー企画が持ち込まれる。写真撮影の機会もあり、特定のテーマでモディ首相のメッセージを広めるような投稿も見られる。
キャンペーンが最高潮に達するのが4月と5月の総選挙だ。旅行やグルメ、宗教、テクノロジーといった分野のコンテンツクリエイターが、その影響力ゆえに動員される。
BJPの選挙対策陣営の一翼を担うデバン・デイブ氏はトムソン・ロイター財団に対し、「昨年中にさまざまな分野のインフルエンサーと会い、党の政策や、この9年間の政府による取り組みと成果を伝えた。それを各自の表現で、改めてシェアしてもらうようお願いしている」と語る。「第三者の視点として提示されれば、信頼性は大幅にアップする」
<全ての政党が参戦>
こうした戦略を採用しているのはBJPだけではない。
野党第1党のインド国民会議派でSNSコミュニケーションを担当するバイバブ・ワリア氏は、トムソン・ロイター財団が運営するニュースサイト「コンテクスト」に対し、インフルエンサーたちの人気を利用するために積極的な勧誘を行っていると語った。
「考えを同じくする人々に働きかけようと試みており、その多くが国民会議派のために投稿してくれている」とワリア氏は言う。「仮に直接関係のないコンテンツでも、我が党の政治イデオロギーや姿勢に沿った意見を発信していただいている」
またパンジャブ州の庶民党は昨年、自党の取り組みを宣伝するためにインフルエンサーの協力を得ようと試みた。
一方、インド南部テランガナ州の政党バーラト・ラシュトラ・サミティは、州議会選挙において自党の主張を宣伝するため、約250人のインフルエンサーと手を組んだ。
とはいえ、インドではネット上でのデマ拡散という問題が大きくなり、フェイクニュースが世界最大の民主主義国インドにとって大きなリスクとなっているだけに、こうした戦略への懸念も生まれている。
研究者らは、透明性も1つの懸念要素だと指摘する。
「金銭のやり取りがあるのか、あるいは何らかの見返りを期待した投稿なのか不明だ。境界線がぼやけ、曖昧になっている」と、インターネット自由財団でエグゼクティブ・ディレクターを務めるプラティーク・ワグレ氏は語る。
<変化する影響力>
インドにおけるインフルエンサーの力を借りた選挙運動というアイデアは、複数の政治コンサルタントによれば、3─4年前にさかのぼるという。首都ニューデリーで農家による抗議行動が発生し、ネットの投稿でデモが拡大した時期だ。
政治コンサルタント会社ポリティーク・アドバイザーズを創設したアンキット・ラル氏は、「インフルエンサーとユーチューブの地元ニュースチャンネルが、メッセージの拡散に非常に大きな役割を果たした」と指摘する。
「これがBJPの注意を引いた。BJPとしては、もっと若く新しいオーディエンスに手を広げ、実績のあるインフルエンサーを利用する必要があった」
インドの18─29歳の有権者数は2000万人以上。インフルエンサーがさまざまな政党の政治家への支持を表明しインタビューするのをネットで視聴する数は、それよりもさらに数百万人多い。
ミシガン大学のジョヨジート・パル教授は、「(こうした投稿は)あからさまなプロパガンダと言ってもよかろうが、政治家に人間味を感じさせるうえで有効だ」と語る。
<とことん地元密着>
サムヤク・ジャインさん(22)は約11万人のフォロワーに向け、旅行関連コンテンツをインスタグラムに投稿している。これまで4回、BJPのインフルエンサー会合に参加した。
「ざっくりした意見交換で、私たちに何をしてほしいか伝えられる」とジャインさん。「党がどのような取り組みを進めているか、何を計画しているか、つまり党としての歩みを教えてもらう」
BJPは地元に密着した影響力を期待して、ジャインさんなど数百人の地元インフルエンサーにアプローチしている。
BJPのデイブ氏の説明では、たとえば建設予定の道路があるインフルエンサーの自宅近くを通ることになると、BJPはそうした変化によって生活がいかに改善したかを発信するよう依頼するという。
「党が投稿のネタを与えるという話ではない」とデイブ氏は言う。「発展の勢いを維持したいと願うならば、なぜモディ政権を続投させるべきなのか、その理由を人々に近づいていって語りかけるということだ」
SNS専門コンサルタントは、鍵は「地元密着」だと考えている。インフルエンサーが受け手と1対1の信頼関係を築くことができるからだ。
広告代理店サビン・コミュニケーションの創業者クマル・サウラブ氏は、「インドの選挙で勝敗を左右するのは草の根レベルだ。こういうインフルエンサーは(自分の地元で)非常に知名度が高い」と語る。
あるコンテンツクリエイターは、政治家のための投稿は収入にもつながると話す。自身も、昨年のマディヤプラデシュ州における地方選挙に向けて、複数の野党から反BJPのコンテンツ作成を依頼されたという。
このクリエイターは、「SNSで活動している政治家は多いが、フォロワーは多くない」と語る。委託されたのは、与党の政策に批判的な投稿だという。
「スポンサー付き、金をもらって投稿していることは他言無用と言われた」
このクリエイターは匿名を希望しているが、この種の投稿をこれまで5件作成し、1件当たり約180ドル(約2万7000円)の報酬を得たと語る。
選挙運動が本格化しようとしている現在、各党とも、ネットでの活動を開始する準備は整っていると話す。
BJPのデイブ氏は、「候補者が公示されたら、全ての選挙区できめ細かく(インフルエンサーに)働きかけ、その選挙区にとって特にこの候補者がいかに望ましいかという点についても理解してもらう」と語った。
(翻訳:エァクレーレン)
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