シンクタンクの新米国安全保障センター(CNAS)による新たな戦争シミュレーション実験によると、台湾と中国の間で将来起こり得る紛争は、先進的な水中ドローンや、高度な自律テクノロジーを駆使したドローン戦が中心になる可能性がある。
この報告書は、台湾に対する中国の侵略に対する懸念が高まっているなかで発表された。1月の台湾総統選挙期間中に中国が台湾海峡に数十個の監視気球を送り込み、5月には中国の軍艦2隻が台湾の制限水域に進入した。米国防総省(DOD)は、台湾と中国との紛争が直ちに発生するとは予想していないものの、潜在的な敵対行為への備えは「絶対的な優先事項」だと述べている。
報告書の執筆者らは、南シナ海での紛争におけるドローンの使用が、現在実行されているものとは大きく異なる点を数多く挙げている。特に、しばしば「最初の本格的なドローン戦争」と呼ばれるウクライナ紛争がその顕著な例だ。
ウクライナの戦場との相違点
2022年にロシアがウクライナに侵攻して以来、ドローンは軍事専門家が「キルチェーン(攻撃連鎖)」の最初の3段階と呼ぶ、「発見」「ターゲティング」「追跡」、それに爆弾の投下に活用されてきた。ドローンは、撃墜されたり、パイロットが操縦できないようにする周波数妨害装置によって使用不能になることが多く、寿命が短い。報告書によると、戦争で頻繁に使用される市販のドローンであるクアッドコプターは、平均して3回しか飛行できないという。
このようなドローンは、台湾侵攻の際にはほとんど役に立たないだろう。「ウクライナとロシアの紛争は陸上での戦闘が中心なのに対して、米中間の紛争は空と海での戦闘が中心になるでしょう」とCSIS(戦略国際問題研究所)のドローン・アナリスト兼客員フェローであるザック・カレンボーンは言う。カレンボーンは、この報告書には関わっていないが、その予測には概ね同意している。ウクライナで普及している小型の既製品ドローンは、飛行時間が短すぎて南シナ海で効果的に使用することはできない。
水中戦争
その代わりに、台湾における紛争では、水中および海上ドローンが使用される可能性が高い。報告書によると、台湾は中国本土からわずか160キロメートルしか離れていないため、このような紛争の最初の数日間は台湾海峡で展開される可能性が高いという。中国のハイテク自律型運送船「朱海云」は、米国の潜水艦探査のために自律型水中ドローンを送り込むかもしれない。これらのドローンは攻撃を仕掛ける可能性があり、潜水艦を撃沈できなくても、米国と台湾の注意とリソースを逸らせるかもしれない。
また、中国が南シナ海におとりのドローン・ボートを大量に送り込み、「米軍のミサイルや潜水艦が、価値の高い艦船と無人の商業船舶を判別しにくくする」可能性もあると、著者は書いている。
ほとんどのドローンのイノベーションは海上での用途に特化されていないが、上で述べたような使用例は決して前例のないことではない。ウクライナ軍は水上バイクを遠隔操作できるように改造し、黒海のロシア船舶を威嚇し、さらには沈没させたことで注目を浴びた。
高まる自律性
現在のドローンは自律性がほとんどない。通常は人間が操縦しており、固定されたGPSの地点まで自動操縦できるものもあるが、目標が移動している戦争のシナリオでは、一般的にあまり役に立たない。しかし、報告書の著者は、自律テクノロジーは急速に発展しており、より高度な自律ドローン群を保有する国が大きな優位性を持つことになるだろうと述べている。
具体的にはどのようになるのだろうか。米国でも中国でも、数百万ドル規模の防衛研究費が「スウォーム(群れ)」、すなわちドローンが自律的に集団で移動し、任務を遂行する戦略に費やされている。このテクノロジーはまだ実用化されていないが、成功すれば、あらゆる潜在的な紛争において状況を一変させるものとなる可能性がある。
海上の紛争は、AI(人工知能)によるナビゲーションを導入しやすい土壌になるかもしれない。なぜなら、地上よりも「比較的ものが少ない海面」の方が物体の認識が容易だからだ、と著者は書いている。
中国の優位性
中国が潜在的な紛争において持つ主な優位性は、台湾に近いことである。約800キロメートル以内に30以上の空軍基地があるのに対し、最も近い米国の基地は770キロメートル離れた沖縄である。しかし、それよりもさらに大きな優位性は、中国がどの国よりも多くのドローンを生産していることだ。
「中国は商業用ドローン市場を完全に支配しています」。この報告書の共同執筆者で、CNASの防衛プログラムの責任者を務めるステイシー・ペティジョンは言う。これには、ウクライナで使用されているタイプのドローンも含まれる。
台湾がこれらの中国製ドローンを自国の防衛のために使用するには、まずドローンを購入しなければならないが、中国政府が阻止に動く可能性があるため、困難を伴う。また、購入後にドローンを改造し、製造企業との接続を切り離す必要がある。中国の製造元が遠隔操作で電源を切ったり、サイバー攻撃を仕掛けてくる可能性があるためだ。このような改造は大規模には実施できないことから、台湾は事実上、世界屈指の商業用ドローン供給企業から切り離され、自前でドローンを製造するか、米国などの別の製造業者を探さなければならなくなるだろう。6月19日、米国は台湾への軍事用ドローン1000機(3億6000万ドル相当)の販売を承認した。
今のところ、専門家はそれらのドローンがどのように使用されるのか、推測するしかない。南シナ海での紛争への備えは国防総省にとって最優先事項ではあるものの、それは多くの課題の1つに過ぎない、とCSISのカレンボーンは言う。「私の考えでは、現実的なアプローチは、こうしたさまざまな事態に対処しなければならない可能性を認識することです。しかし、どのように事が進むのか、具体的な詳細は分かりません」。
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