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アングル:「海底複合電力網」が鍵、欧州オフショア風力の成算 - ロイター (Reuters Japan)

[オスロ/エスビアウ(デンマーク) 2日 ロイター] - 欧州北部の国々は、北海海底に共同の電力グリッドを構築し、将来的に建設されるオフショア風力発電所を接続する計画について協議を進めている。狙いはエネルギー安全保障の強化だが、実現には資金調達や規制面での課題をクリアする必要がある。

6月2日、欧州北部の国々は、北海海底に共同の電力グリッドを構築し、将来的に建設されるオフショア風力発電所を接続する計画について協議を進めている。写真は5月、エスビアウの港を訪問したショルツ独首相(左)とフォンデアライエン欧州委員長。後ろは風力発電のタービンのパーツ(2022年 ロイター/Stine Jacobsen)

欧州各国は、気が遠くなるほど多数のオフショア風力発電所を建設する公約を発表している。ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、ロシアに大きく依存している石油・天然ガスの調達を削減する必要にかられたことも、こうした動きを後押しした。

5月、デンマークの港湾都市エスビアウを訪れたフォンデアライエン欧州委員長は記者団に対し、「欧州における相互依存を強化すれば、ロシア依存からの脱却も進む」と語った。エスビアウは、風力発電用タービン大手のベスタスとシーメンス・ガメサ両社の事業拠点だ。

「グリーンな発電方式が素晴らしいということは誰もが知っている。だが本気で活用しようと思えば電力グリッドが必要で、そこを強化しなければならない」と同委員長は述べた。

だが、ただでさえ無理がかかっている陸上の電力グリッドを過負荷状態に陥らせずに、あるいは海底ケーブルでごちゃごちゃと増設することなく膨大なグリーン電力を複数国間で融通するにはどうすればいいのか──。それはまだ見えていない。

注目を集めているアイデアが、「オフショアグリッド」である。新設される風力発電所は「エネルギーアイランド」と呼ばれるハブに接続。そのアイランド(島)を送電ケーブルで相互接続し、1カ国ではなく、複数の欧州諸国に電力を供給する。

すでにデンマークの電力グリッド企業エナジーネットは、北海とバルト海のデンマーク領海にある2カ所のエネルギーアイランドをドイツ及びベルギーと接続する協議を進めている。

エナジーネットでエネルギーアイランド開発を担当するハンネ・シュトルム・エドレフセン氏は、ノルウェー、オランダ、ドイツとも将来的なプロジェクトについての協議が行われていると明かした。

<共同風力発電所>

デンマークとオランダ、ドイツ、ベルギーは5月中旬、現在15ギガワット(GW)前後にとどまっているオフショア風力の発電容量を、2050年までに10倍の150ギガワット相当に増大させる計画を発表した。

デンマークのヨルゲンセン気候・エネルギー担当相はロイターに対し、「これまでとまったく違うのは、再生可能エネルギーの構築は各国共同でやるのが最善だと考えているという点だ」と述べた。

ベルギーの送電グリッド事業者エリアのクリス・ペーターズ最高経営責任者(CEO)によれば、北海海底電力グリッドは、コストの抑制につながるとともに、不安定とはいえ予測可能なパターンに従うことの多い風力による発電量を管理しやすくなるという。

「風のような気候現象の多くは、アイルランド海から北海へ、そしてバルト海へといった具合に、欧州を横切って移動していく傾向がある」とペーターズCEOはロイターに語った。

海にエネルギー集約ハブがあれば、風力発電所による電力を陸地側の消費者が必要とするときまでオフショアに留めておくこともできる。

「こうしたハブは周囲の風力発電所からの電力を集めて陸地に送るか、別のハブに転送し、その時点で需要がある国に向けて、そのハブから陸地に向けて供給することになる」とペーターズCEO。

これによって、陸上の電力グリッドが過負荷になる事態を回避できる。グリッドの過負荷は頻繁に発生しており、ドイツは定期的にデンマークの風力発電事業者に補償金を払いって風力発電タービンを一時的に停止させ、電力輸入を制限して自国の電力グリッドの過負荷状態を防いでいる。

<建設コストは誰が負担するのか>

だがロイターの取材に応じた業界関係者によれば、海底に張り巡らされる電力グリッドの建設には少なくとも10年はかかるし、建設費も優に100億ドル単位になるとみられるという。

現時点で、欧州で稼働中の複合電力グリッドは1つだけだ。バルト海の複数のオフショア風力発電所を接続し、デンマークとドイツ両国に電力を供給している。運営しているのはエナジーネットと、エリアが80%を保有するドイツの電力グリッド事業者50ヘルツである。

従来は既存のオフショア風力発電所が個別の電力ケーブルを経由して1つの国だけに電力を送っていたのに対して、複合電力グリッド事業では発電と送電の要素を統合し、2つ以上の市場を接続している。

複数の国が関与し、場合によってはEU加盟国ではない英国も含まれるプロジェクトに対して、投資・開発主体が誰になるかという点も未知数だ。

デンマーク電力大手オーステッドで規制対応部門を率いるウルリク・ストリッズベイク氏は、「すべての当事者が複合電力グリッドの開発に参加するインセンティブを持たねばならないというのが大きな問題だ。現状ではそうなっていない」と語る。

すべての当事者に投資インセンティブを与えるには、コストと収益を共有する仕組みが必要だが、現行の規制ではそれが認められていない、とストリッズベイク氏は言う。

とはいえ、世界のオフショア風力発電所の4分の1近くを建設してきたオーステッドとしては、オフショア風力発電の将来的なポテンシャルを解き放つにはこうした複合電力グリッドが不可欠になると見ている。

ストリッズベイク氏はロイターに対し、「複合電力グリッドによって、時間と費用を大幅に節約でき、煩わしい手間も減る」と述べた。

<高度なテクノロジーは不要>

風力発電産業のロビー団体ウィンドヨーロッパを率いるジャイルズ・ディクソン氏によれば、欧州各地で複合電力グリッドの計画がいくつか進んでいるが、欧州にはこれに関する明確な規制枠組みがないとことが大きな障害になっているという。

ディクソン氏はロイターに対し、「2地点間を放射状に結ぶグリッド接続だけに頼るのであれば、各国政府がいま公約している膨大な発電容量に向けてオフショア風力の増設を続けるというのはナンセンスだ」と語った。

一方で、コンサルタント会社ウッドマッケンジーの研究者ソーレン・ラッセン氏は、欧州がロシア産化石燃料に代えてオフショア風力発電を迅速に拡大することをめざすならば、短期的にはそうした従来型のグリッドが手軽なソリューションになるのではないか、と話す。

「2020年代のうちに、メッシュ構造グリッドが短期的解決策にになるかは分からない」とラッセン氏はロイターに語った。

さらにラッセン氏は、法規制上の障害は残っており、遅延のリスクがあると付け加えた。

ウィンドヨーロッパのディクソン氏は、欧州委員会が今後の規制のあり方を提示すれば、必ずしも遅れが生じるとは限らないと主張する。

「政治的な意志があれば、あっというまに可能だ。高度なテクノロジーは要らない」とディクソン氏は話した。

(Nora Buli記者、Stine Jacobsen記者、翻訳:エァクレーレン)

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