[ロサンゼルス 24日 ロイター] - ジェイソン・スタークさんの幼い息子2人は、何カ月も前から、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を観たいと大騒ぎだった。この作品が封切られた4月、スタークさんは子どもたちのために特別な1日を用意してやろうと決意した。
その日仕事を休んだスタークさんは、9歳と6歳の息子を乗せ、コネティカット州の自宅から30分ほど車を走らせた。めざすは高さ15メートルのIMAXスクリーンが売り物のAMC系列の映画館だ。「一緒にお昼を食べ、映画に行き、楽しい1日を過ごした」とスタークさん。「子どもたちは喜んでいた。スクリーンの大きさに驚いていた」
公開5日間で国内の興行収入は2億460万ドル。配給元であるコムキャスト傘下のユニバーサル・ピクチャーズによれば、そのうち約35%が、巨大スクリーンや3D映像などの特別規格による上映だ。
映画製作会社や映画館の幹部らは、コロナ禍が収まって映画館に戻ってきた観客は、自宅のソファから重い腰を上げるだけの理由になる鑑賞経験を求めている、と話す。今年、米国とカナダでの興行収入全体としては2019年より16%減少しているが、『トップガン マーヴェリック』や『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』など派手なスペクタクルを提供する作品には多くのファンが集まっている。
「映画館での鑑賞に最も熱心な人々は、できるかぎり最大にして最高、最も体感できる時間を過ごしたいと思っている」と語るのは、ユニバーサル・ピクチャーズのジム・オール国内配給担当部長。
巨大スクリーン、館内を揺るがす音響、振動する座席、雨や松林の香りといった環境効果のシミュレーションといった魅力が拡大していることは、ストリーミング全盛の時代に、映画館が何によって成功しようとしているかを垣間見せてくれる。調査会社コムスコアでは、こうした規格での上映が興行収入全体に占める比率は、2019年の9.2%から、2023年には16.7%に拡大すると予測している。
<「もっと大きく、さらに優れた映画館を」>
映画界における毎年のイベント「シネマコン」でもこれがホットな話題になりそうだ。
コムスコアでソーシャルメディア担当アナリストを務めるポール・ダーガラベディアン氏は、「もっと大きく、さらに優れた映画館を作れば、もっとたくさんの人がやってくる」と語る。
実際、シネマコンの出展事業者たちは、そうした映画館を建設してきた。調査会社オムディアによれば、北米では高品質規格に対応するスクリーン数が、2022年には前年比4.4%増の1940と過去最高を更新した。これらのスクリーンでの上映の場合、通常チケットより5─7ドル(約670─940円)高くなるのが普通で、製作会社や映画館にとって売上増をもたらしている。
巨大スクリーンの選択肢としては、先駆者であるIMAXをはじめ、映画館チェーンが考案したさまざまなプレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)がある。
ミズーリ州に本社を置くB&Bシアターでコンテンツ・企画・開発担当最高責任者を務めるブロック・バグビー氏は、現在、同社系列の複合映画館(シネコン)では、総売上の約半分が高品質規格によるもので、コロナ禍前の30%に比べて増加が見られるという。
B&Bは14の州で映画館を運営し、スクリーン数は合計531。暖房リクライニングシート、視野角270度の「スクリーンX」画面、没入型音響空間(イマーシブ・オーディオ)、アクション連動で振動するMX4Dシートを装備した大型規格のスクリーンを提供している。
「ポスト・コロナになって、うちのプレミアム・スクリーンの売上高はかつてないほど好調だ」とバグビー氏は語る。
IMAX のリチャード・ゲルフォント最高経営責任者(CEO)によれば、ハリウッド作品にせよ、中国の『流転の地球2』など各国の現地語作品にせよ、IMAXへの関心は世界中で高まっているという。
IMAXはロイターの取材に対し、2023年に入ってから現時点までにIMAX規格スクリーンの新規導入やアップグレードについて62件の契約を締結し、すでに2022年通年を超えたと語った。IMAX上映による今年の興行収入総額は、コロナ禍以前の水準に回復すると予想している。
ゲルフォントCEOは、現在ハリウッドは、アクションと特殊効果をさらに充実させた大作を映画館に送り込んでいると指摘する。
「この種の文化的イベントと呼べる作品は、誰もがIMAX規格で観たいと思っている」とゲルフォントCEOは語る。「こうした作品はグローバル規模の文化体験のようになっており、我々はそこから利益を得ているといえる」
IMAX規格の重要性を裏付けるように、ユニバーサルのオール氏など配給会社の幹部は、作品の封切り日を決める前に、IMAX仕様の映画館の空き状況についてゲルフォントCEOに相談しているという。
<映画酔い、水濡れに注意>
エグジビター・リレーションズでアナリストを務めるジェフ・ボック氏は、この夏、拡張体験を求める観客の熱気がどれくらい高いかわかるだろうと語る。5月のマーベル製作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー3』に始まり、7月下旬のクリストファー・ノーラン監督による伝記映画『オッペンハイマー』、さらには、8月のサメ映画『MEGザ・モンスター2』に至るまで、大型スクリーン向けの作品が目白押しだ。
その後は、大型スクリーン向け作品とは異なる趣向を提供する大人向けドラマ作品が続く、とボック氏は言う。
マテオ・オソリオさんは、複数の異なる規格で『スーパーマリオブラザーズ』を観ることにした。フロリダ州オーランドでは、映画館チェーンのリーガルが展開する体感型シートや環境効果を備えた4DX規格、そのあとでIMAX規格の映画館だ。
「IMAXのサウンドはすごかった。映画館が揺れていた」とオソリオさんは言う。
だが、没入感のある体験が過剰になることもある。
「(4DXで観た)『アバター』では、本当に酔ってしまった」とオソリオさんは言う。「3Dでノンストップ飛行だった。水も噴き出してきて、上映中、ずっとびしょ濡れだった」
(Dawn Chmielewski記者、Lisa Richwine記者 翻訳:エァクレーレン)
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