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コラム:日本政府の円買い介入再開はあるか、鍵はドル高値の水準 ... - ロイター (Reuters Japan)

[東京 29日] - 夏場の外為市場でドル高・円安が進んでいる。8月28日の海外市場では一時146円74銭と昨年11月9日以来の高値を記録する場面があった。今年の3月24日に記録した直近安値の129円64銭を底に、5カ月間で計測された値上がり幅は約17円10銭、騰落率に換算すると13.2%もの急騰だ。

 夏場の外為市場でドル高・円安が進んでいる。8月28日の海外市場では一時146円74銭と昨年11月9日以来の高値を記録する場面があった。2022年6月撮影のイメージ写真(2023年 ロイター/Florence Lo)

昨年9月22日の夕刻に日本の財務省が約24年ぶりのドル売り・円買い介入に踏み切った当日のドル/円相場の高値が145円90銭だったことは、国内外の市場関係者の脳裏にまだ鮮烈な記憶として残っている。

日本の為替政策を所管する鈴木俊一財務相は、為替市場への介入に際して特定の水準や方向を嫌っているわけではなく、一方的で行き過ぎた変動を戒めるのが目的だとの建前を崩していない。

だが、昨年10月下旬に1ドル=151円台の水準で2回目のドル売り・円買い介入を実施した後、約2カ月半で最大25円近くもドル/円相場が急落して127円台まで円高が進んでも、鈴木財務相は円高の速度超過をけん制する口先介入を一切行わなかった。

<けん制発言は穏やか>

一方、今年の春先から進み始めたドル高・円安のスピードは、昨年秋から今年の年初に進んだドル安・円高に比べてかなり遅かったが、5月下旬に1ドル=140円00銭を超える水準までドル高・円安が進むと、日本の財務省は日銀と金融庁も交えた「三者会談」を久しぶりに招集して「過度の変動は好ましくない」との見解を示すなど、はた目からみて明らかに140円00銭付近のレベルを意識したとみられる円安忌避の警告を発する姿が目撃された。

その後も、鈴木財務相は為替がドル高・円安に振れるたびに「高い緊張感を持って注視している」、「行き過ぎた動きには適切に対応する」などと発言していることから、日本政府によるドル売り・円買い介入再開への警戒感が高まっている。

ただ、今のところ鈴木財務相が口先介入での円安けん制を行う際の言葉遣いは「(円安の進行を)注視している」という比較的マイルドな表現にとどまっており、昨年9月に実弾介入を発動する直前に頻繁に使われていた「憂慮している」という強い嫌悪感を示す表現にはなっていない。

その後、昨年9月に1回目のドル売り・円買い介入に踏み切った後に鈴木財務相は「(行き過ぎた円安に対しては)断固たる措置をとる」という非常に強い表現を用いて10月21日と24日に実施した2回目、3回目の為替介入を予告していた。

改めて指摘するまでもないが、為替市場への口先介入は「言葉が命」だ。為替円安の動きに対して警告を発する際に「注意深くみて適切な対応を取る」と言うのと「憂慮しているので断固たる措置をとる」と言うのとでは、言霊(ことだま)の響きが全く違う。

<政府の本音はどこか>

今のところ、円安の進行に対する日本政府の警戒レベルは、昨年秋の介入実施直前の頃ほどには高まっていないような印象が強い。いったい何故だろうか。

日本政府が約24年ぶりのドル売り・円買い介入に踏み切った昨年秋は新型コロナの感染防止を目的にした水際対策により、本来ならば円安メリットの受け皿になるべき訪日外国人客によるインバウンド消費が封印されていた。

このため、当時のドル高・円安局面では輸入インフレによる円安の悪影響だけが目立つ中、日経平均株価も2万5000円─2万8000円台で低迷していた。

だが、現在は水際対策の撤廃によってインバウンド消費が復活して国内の観光地や商業施設に活気が戻り、企業業績の上振れ期待も一助となって、日経平均株価はバブル崩壊後の戻り高値を更新した後も底堅く推移、3万2000円前後の巡航高度を保っている。現在は昨年秋に比べて「悪い円安」論は盛り上がっておらず、「良い円安」の側面にも光が当たっている。

このような状況下で日本の財務省が巨額のドル売り・円買い介入を再開した場合、為替が再び一気に円高に振れて訪日外国人客によるインバウンド消費の円換算額が目減りしたり、日本の企業業績の下振れ観測が強まったりして、日本が足元で享受している円安のメリットが一部減殺されてしまうリスクがある。

このため、現在の市場環境の下で日本の財務省がドル売り・円買い介入を再開した場合、その後に観測される為替や株価の反応次第では、いったい何のために「虎の子」の外貨準備を取り崩してまで為替市場に介入しているのか、賛否両論が交錯する可能性がありそうだ。

もちろん、ドル売り・円買いの為替介入には「輸入インフレから国民生活を守る」という立派な大義名分もあるため、今後さらなる円安が進んだ場合は、鈴木財務相の表現が「注視」から「憂慮」に格上げされ、それでも止まらない場合はドル売り・円買い介入が再開される可能性はあるだろう。

あくまで私見だが、今後のドル/円相場が心理的節目の150円を超えてきた場合は、鈴木財務相の言葉選びも変わってくるのではないかと思っている。

<ドル高のピークと介入の関係>

もっとも、日本政府が躍起になってドル売り・円買い介入を実施しなくても、1ドル=150円を超えるドル高・円安がどんどん進む可能性は低そうだ。7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)は11回目の利上げを実施したが、昨年の3月から始まった米国の利上げは既に9.5─10合目付近に達している可能性が高い。

現在、米国の金利先物市場では「利上げ停止観測が広がりそうで広がらない」というモヤモヤ感が解消されておらず、年内に0.25%刻みで「あと1回」の利上げが実施される確率が69%程度で織り込まれている。

世界で最も流動性が高くて使い勝手の良いドルに5%台前半という魅力的な短期金利が付与されており、これからまだ少し上がるかもしれないという期待が残っている間、ドルの人気はなかなか落ちない状況が続きそうだ。

ただ、米国で追加利上げが追加された場合でも、それで打ち止めになるならば、米政策金利の先高観に後押しされたドル高圧力はガス欠状態になるはずだ。

その後は日本政府による人為的な需給操作の助けが無くてもFRBの「次の一手」が利下げになることを見越してドル/円相場はピーク・アウトの時期を模索し始めるだろう。

あくまで現時点での判断だが、米国で年内にあと1回の追加利上げが実施されても、そこで打ち止め感が広がる場合、ドル/円相場の戻り高値は昨年10月高値の151円95銭を超えることなく頭打ちになると考えている。

日本政府が巨額のドル売り・円買い介入をその手前で行ってしまうと、昨年10月に総額6.3兆円規模のドル売り・円買い介入を実施した後の2カ月半で25円近くもドル/円相場が急落した時のように、日本政府の為替介入が引き金になってドル安・円高方向への「過度の変動」を助長しかねない。

現在、日本は為替相場を自由化して約半世紀の歳月を経ており、長期的にみて最適な資源配分を促す為替レートの水準や方向は、市場に任せて決めてもらうのが大原則だ。為替は自然体の需給を反映し、時宜に応じて円高なったり円安になったりのするのが国益にかなっており、一方的な「円高国患論」や「円安悪玉論」は、市場重視の思想に反している。

これからの市場でドル高・円安が進んだ場合、財務省は慎重に実弾介入再開の是非を検討することになるだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*植野大作氏は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ為替ストラテジスト。1988年、野村総合研究所入社。2000年に国際金融研究室長を経て、04年に野村証券に転籍。国際金融調査課長として為替調査を統括、09年に投資調査部長。同年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画、12月より主席研究員兼代表取締役社長。12年4月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年4月より現職。05年以降、日本経済新聞社主催のアナリスト・ランキングで5年連続為替部門1位を獲得。

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