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鍵を握るのはJASM 日の丸半導体の復権をかけたTSMCの誘致 - 日本経済新聞

日本の部材メーカーや設備メーカーの仕事をしやすくするためにも、強い半導体メーカーという顧客が日本に存在することが重要だ。世界最大の半導体製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)の誘致に成功し、ソニーグループやデンソーとの合弁で熊本に半導体製造企業JASMをつくることは、日本の半導体産業にとって光明になるのではないか。『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』(長内厚著/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

日本の部材メーカー、設備メーカーが強くなる

 日本の半導体はもう駄目なのかというと、一方で半導体の部材や設備はまだまだ強い、という声もあります。確かに日本には優れた半導体関連の部材メーカーや設備メーカーは存在しています。しかし、日本の半導体の設備や部材も、多くの領域で日本だけが必ずしも群を抜いて強いというわけではないのです。日本が群を抜いて強いのはシリコンウエハーなどいくつかの部材です。

 半導体製造装置も31%のシェアを持っているといわれていますが、日本の半導体製造装置の中で特に露光装置と呼ばれる半導体の基板ウエハーに回路を描く装置に関していえば、かつてはその分野でトップを走っていたキヤノンやニコンも、技術的にはオランダのASMLなどに負けており、最先端のチップはオランダに頼らないとつくれない状態になってしまいました。

 とはいえ、東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREEN、KOKUSAI ELECTRICといった強い半導体製造装置メーカーもまだまだ健在です。

 ウエハーに至っては信越化学工業とSUMCOという日系2社でシェアの50%を握っています。さらに様々な材料を見ていくと、ウエハーにパターンを焼き付けるときに使用されるフォトマスクは、TOPPANと大日本印刷で50%、フォトレジストも、JSR、東京応化工業、信越化学工業、住友化学、富士フイルムの日系5社で90%のシェアを誇っています。EUV露光装置は確かにオランダのASMLにシェアを奪われましたが、露光に欠かせないEUVレジストは、いまだに日本が握っているのです。

日本にはまだ強い半導体製造装置メーカーが健在だ(写真はイメージ)(写真:IM Imagery/stock.adobe.com)

日本にはまだ強い半導体製造装置メーカーが健在だ(写真はイメージ)(写真:IM Imagery/stock.adobe.com)

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 これら半導体の部材メーカーの工場は半導体工場に近接して建設されることが多いですし、設備メーカーも半導体メーカーと近くクロースなコミュニケーションが取れるほうが技術開発や製品開発をしやすいといえます。

 ですから、日本の部材メーカーや設備メーカーの仕事をしやすくするためにも、強い半導体メーカーという顧客が日本に存在することが重要です。つまり、日本の半導体関連産業の強化のためにも日本自身の半導体産業の強化が必要といえます。

 半導体生産に関する日本の現状は決して輝かしいものではありませんでしたが、期待が膨らむ動きも出ています。それは、世界最大の半導体製造企業である台湾積体電路製造(TSMC)の誘致に成功し、ソニーグループやデンソーとの合弁で熊本に22/28ナノプロセス、12/16ナノプロセスの半導体製造企業、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)をつくることになったことです。出資の大半はTSMCによるものですが、日本政府も6000億円規模の基金をつくって、その多くを新工場の補助に充てるといわれています。

熊本にできるJASMへの期待

 筆者はむしろ、日本の主要企業8社が出資して最先端の半導体の国内生産を目指すラピダスより、こちらのほうが日本の半導体産業においては光明になるのではないかと考えています。

 その理由の1つは、日本がようやく強いアジアの企業を誘致できたことです。過去を振り返ると、2016年にシャープが台湾企業の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収され、時を同じくして東芝の家電部門や映像部門が中国企業に買収されるという事態に至り、マスコミを中心に技術流出の懸念が喧伝(けんでん)されました。

 それ以前にも2000年代半ば頃には、シャープやパナソニックとは異なり自社製の液晶パネルを持たなかったソニーが、韓国のサムスン電子と合同でS-LCDという会社をつくりパネルの安定供給を図ったのですが、その際も日本の技術が流出するとして、経済産業省からもメディアからもたたかれたことがありました。

 現在ではそうした考えはかなり薄まったように思いますが、当時はアジア諸国との合弁というと必ずと言っていいほど技術流出の話が出ていました。水は高いところから低いところへしか流れませんので、そうした話の大前提には、常に日本の技術が上だと考えていたということがあったのです。

 様々な分野で日本の技術が圧倒していたのは、1980年代から90年代頃までの話です。2000年以降はエレクトロニクス産業の分野、特に製造にかかわる技術では韓国・台湾・中国に抜かれていたにもかかわらず、まだ日本が上にいるという幻想をどこかで抱き続けているように思われます。

 この幻想は、日本人のアジア諸国に対するアンコンシャス・バイアス、無意識の偏見から来ていると思うのです。

 端的に言って日本人は、日本以外のアジアの国・地域を下に見ている、というか下に見ていたいという気持ちがどこかにあって、だからこそ日本の技術が台湾や中国より下であるはずがないと思い込むようになったのではないでしょうか。ちょうど自動車やエレクトロニクス製品での絶対的優位を誇っていた米国が、二流国と下に見ていた日本に追い上げられて、次々に規制に動かざるを得なかった状況と同じなのです。

 こうした経緯を踏まえて、今回、台湾のTSMCを三顧の礼で迎え入れ、政府も支援を表明したという事実を見ると、日本にも大きな意識の変化が訪れたことを示しており、それ自体が非常に重要なことと考えます。

 さらには、世界最大の半導体製造企業であるTSMCと、世界最大のCMOSセンサー(撮像素子)メーカーのソニーの協業という、目指す分野で最も強いパートナーと手を組むことは、日本にとって大きなプラスになります。弱者連合ではだめなのです。

最も強いパートナー、TSMCと組んだことは大きなプラス(写真:MichaelVi/stock.adobe.com)

最も強いパートナー、TSMCと組んだことは大きなプラス(写真:MichaelVi/stock.adobe.com)

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 エルピーダメモリやJOLED、ジャパンディスプレイ(JDI)などの例も含めて、日本のこれまでのハイテク産業支援は、日の丸半導体とか日の丸液晶などと呼んで国内企業同士の再編でしたが、その多くは失敗しています。それは結局、弱者連合だったからなのです。成功を望むなら一番強い相手と手を結ぶ、ということが基本だと思うのです。

 かつての例を挙げれば、ソニーが韓国のサムスンとS-LCDをつくったときは、当時の副社長でプレイステーションをつくったことで知られる久夛良木健氏が、「組むなら世界で一番強いところと組め。それはサムスンだろう」と指示してできた、という話もあります。

 島国根性の強い日本人は、どうしても内向きな見方に偏りがちなのですが、視野を広く持ち、世界で一番強い企業と手を組むということが最も大切なことで、それがJASMなのだと思います。

『半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う』
日本の半導体産業はなぜ衰退し、その復権には何が必要なのか。技術信仰に縛られた日本企業の実態、技術で勝ってビジネスで負けてきた歴史、数を追わないことの問題点などを明らかにし、韓国、台湾になぜ逆転を許したのかについても的確に分析。

長内厚著/日本経済新聞出版/1980円(税込み)

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