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西村京太郎ミステリー、消えたトリック 謎解く鍵「北アルプス」すでに廃線 - 岐阜新聞

今はなき名古屋鉄道の特急「北アルプス」と国鉄時代の特急「ひだ」の記念切符、そして1985年の時刻表

名鉄線から分かれるようにカーブする道路。連絡線の跡に整備されたという=各務原市鵜沼南町

 3月に91歳で亡くなった作家の西村京太郎さん。岐阜県内が舞台になった推理小説の一つに、1985年の作品「特急北アルプス殺人事件」がある。当時、高山線を走っていた特急列車が謎を解く鍵になるトラベルミステリー。今も県内に名残があるが、そのトリックの鍵はすでに過去のものに。現在の感覚では見破ることのできない、難易度の高い作品に“熟成”されている。

◆実在した時刻表にヒント

 物語は、高山線の車窓風景と高山の古い町並みの記述から始まる。ある春、東京の女子大生が観光で高山を訪れた。民芸館に入ると大きな水がめがある。興味津々に、ふたを開ける。中をのぞいて、がたがたと震え出す女子大生。「人が死んでるのよ!」。トラベルミステリーの幕開けだ。おなじみの十津川警部も加わって、アリバイを崩していく。犯人が乗った本当の列車は-。高山線を走る特急列車と時刻表が謎を解く鍵になる。

 現在、高山線の特急といえば特急「ひだ」だ。もちろん、運行はJR東海。3月のダイヤ改正で「ワイドビュー」の愛称がなくなり、「ひだ」のみの呼称となった。この7月にはハイブリッド方式の新しい特急車両「HC85系」が高山線でデビューする。

 だが、現在の感覚では謎は解けない。85年の時刻表を開く。すると、国鉄(現JR)の特急「ひだ」以外にも「北アルプス」という名の特急が走っていた。作品のタイトルにも使われている北アルプス。実は名古屋鉄道の特急で、2001年に廃止になるまで高山線に乗り入れていた。その連絡線は、鵜沼駅と新鵜沼駅の間にあった。

◆似た外観、犯人がアリバイに利用

 現地で名残を探す。各務原市の東部、国宝犬山城を望む鵜沼駅と新鵜沼駅。東西に高山線が延び、南から西へと名鉄線がカーブしているが、もう一つ、同じように南から東へとカーブする“道路”がある。その道沿いに名鉄グループの駐車場が並んでいる。

 民家の庭先にいた男性に声を掛けた。50年ほど前からここに住んでいるという男性(70)。「ここを連絡線が通っていたよ」とカーブした道路を指さす。やはり、線路跡に整備した道路だ。「北アルプス」の印象を尋ねると、「赤い線が入っていたような」と記憶をたどる。昭和の頃の写真を見てもらうと「うん、そうそう見覚えがある」とうなずく。続けて、国鉄時代の「ひだ」も見てもらうと、「一緒やん」と男性。どちらもクリーム色に赤いラインの車体。「違いが分からん」と笑っていた。

 違い-。これこそが謎を解く鍵だ。犯人が乗ったのは「北アルプス」だったのか「ひだ」だったのか。見た目が似ているこの二つの特急を利用し、犯人はアリバイをつくっていた。

 だが、「北アルプス」も国鉄時代の「ひだ」も、今は走っていない。若い人の中には、名鉄が高山線に乗り入れていたことを知らない人もいるだろう。そうなると、作品のトリックは難易度マックス。謎を解けずに迷宮入りだ。

◆西村作品の魅力「トリックの親しみやすさ」

 西村作品の魅力は、旅をするように推理小説を楽しめること。中部学院大講師の文芸評論家、三木秀生さん(78)=岐阜市=は「作品の舞台になった県の中で岐阜県は比較的多い方。納得できるストーリーで、トリックが庶民的」と親しみやすさを強調する。「北アルプス」については「名鉄が乗り入れていたのは20年も前のこと。なくなるとトリックが成り立ちませんね」と寂しそうに話す。

 県内を舞台にした一つの作品をたどると、まるで歴史書のように県内の懐かしい列車がトリックと共に記録されていた。

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